病棟からアシクロビルの投与について相談があった。
「アシクロビルを投与している患者さんですが、末梢のルートが取れなくて、朝分の薬は少ししか投与できていません。ルートを取り直して投与再開できます。投与時間、間隔はどうすればいいか、医師から確認するように言われました。」
こういう問い合わせは、添付文書を見ればすぐ答えが出るようで、実際にはそうでもない。
今回も、最初は「8時間ごとだから……」と考えたものの、よく考えると少し悩ましい。
今回は、そのときに自分がどう考えて、何を調べて、最終的にどう対応したかをまとめてみる。
状況の整理
患者情報
- 30歳代男性
- 帯状疱疹ウイルス感染症
- 髄膜炎も疑われている
- 腎機能低下なし
- アシクロビル点滴静注 6時、14時、22時で投与している
6時分は末梢ルートの確保が難しく、途中で投与を断念。
残液がある状態だった。
その後もルートを確保できず、14時分は投与できていない。
15時40分頃にようやくルートを確保でき、これから投与を再開できる状況になった。
ここで問題になったのが、
「この後、どういう間隔で投与するのがいいのか?」
ということだった。
まず考えたこと
朝分は破棄するとして、14時分と22時分をどうするか。
15時40分頃にルートが確保できたので、実際には16時頃から投与できそうだった。
そこで最初に考えたのが、
16時 → 0時 → 6時
というスケジュール。
これなら、その後は6時・14時・22時という元のスケジュールに戻せる。
「うまいこと6時間ごとできれいに投与できるな」と思った。
……ただ、ここで引っかかった。
アシクロビルって、確か1日3回、8時間ごとだったよな?
8時間ごとを厳守するとどうなる?
添付文書上、アシクロビル点滴静注は通常、1日3回、8時間ごとの投与が基本となっている。
それなら、16時から投与を始めた場合、
16時 → 0時 → 8時
とするのが自然。
その後も8時間ごとに続けることになる。
0時投与は患者が寝ている可能性もあり、16時、8時という時間帯は看護師さんの勤務帯の切り替わりとも重なる。
もちろん、勤務体制を理由に投与間隔を変えていいわけではない。
ただ、実際の病棟では、投与時刻と勤務帯の切り替わりが重なることで、投与忘れや確認漏れのリスクが高くなる可能性もある。
そこで、ふと思った。
そもそも、添付文書の「8時間ごと」って、どの程度明確な根拠があるんだろう?
アシクロビルの薬物動態を確認
まず薬物動態を確認した。
「今日の治療薬」では、アシクロビルの半減期は約2.5時間、未変化体としての尿中排泄率は高いことが確認できた。
実際、添付文書でも、健康成人に5または10 mg/kgを1時間かけて点滴静注した場合の平均血漿中半減期は約2.5時間、48時間以内の未変化体尿中排泄率は68.6~76.0%とされている。
また、腎機能障害患者ではアシクロビルの半減期が延長し、全身クリアランスが低下することも記載されている。
今回の患者は腎機能に問題はなかった。
朝分も十分に投与できていない。
そのため、投与間隔を一時的に短くすることによる蓄積については、腎機能障害患者ほどのリスクはないのではないかと考えた。
ただし、
「半減期が2.5時間だから6時間ごとに投与して大丈夫」
と単純に考えることはできない。
そこで、メーカーに問い合わせることにした。
メーカーに問い合わせ
確認したのは、
「今回のように投与が途中で中断され、その後に投与を再開する場合、投与間隔をどのように考えればよいか」
ということ。
メーカーに問い合わせたところ、8時間という投与間隔について、今回のような投与遅延時の対応を直接示す明確な根拠は確認できないとの回答だった。
一方で、投与間隔を狭めれば相対的に薬物への曝露量が増えるため、過量投与のような症状が出る可能性には注意が必要とのことだった。
つまり、
「6時間ごとにしても問題ありません」
という回答ではない。
今回の患者でどう考えたか
ここまで確認したうえで、今回の患者について考えた。
① 腎機能
腎機能は正常範囲。アシクロビルは腎機能障害によって半減期が延長するため、今回の患者ではその点のリスクは比較的低いと考えた。
② 朝分が十分に投与できていない
6時分は途中で投与を中止しており、その後14時分も投与できていない。通常どおり投与が続いている患者とは状況が違う。
③ 6時間間隔になるのは一時的
16時から投与を開始した場合、
16時 → 0時 → 6時
となる。
6時間間隔になるのはこの1回だけ。
6時まで投与した後は、
6時 → 14時 → 22時
と通常の8時間間隔に戻すことができる。
④ 医療安全面
8時間を厳守すると、
16時 → 0時 → 8時
となる。
もちろんこちらの方が添付文書上の投与間隔には沿っている。
今回のようなケースでは、薬物動態だけではなく、その後の投与を安全に継続できるかという点も考える必要があると思った。
最終的な対応
今回のケースでは、
朝分は破棄。その後、16時 → 0時 → 6時と投与し、6時以降は通常のオーダーどおりに戻すこととした。
6時間間隔の投与になるため、過量投与のような症状には注意してもらうよう看護師さんへ情報共有。また、医師にも今回の対応について共有した。
実際にやってみて
今回の症例では、その後問題なく経過した。
ただ、今回の対応をもって、
「アシクロビルは6時間ごとに投与しても大丈夫」
ということではない。
あくまで、
- 添付文書上は8時間ごとの投与が基本
- 今回は予定どおり投与できていなかった
- 腎機能は正常だった
- 朝分の投与が十分にできていなかった
- メーカーにも確認した
- 6時間間隔になるのは一時的だった
- その後は通常の投与スケジュールに戻した
という条件が重なった、今回の患者に対する個別の判断だった。
今回の対応で考えたこと
改めて
「添付文書だけでは情報は不十分である」
ということを痛感した。
現場では、何らかの理由で投与できなくなってしまった、時間がずれることなどは起こりうる。(日常茶飯事)
質問に
「8時間ごとに投与すれば問題無いです。」
と答えれば間違いではないが、それは現場にとってベストな答えではない。
現場にとってベストな判断を伝えられるのが必要な薬剤師であると私は考える。
我々人間は情報を探す作業においてAIやコンピューターには圧倒的に劣るので、情報だけを伝えるような辞書のような薬剤師は必要とされていない。
効果的な治療、医療安全、患者負担が減らせるかなど多角的な観点から判断できるよう今後も日々精進していきたい。
※本記事は、実際の臨床現場で経験した一例をもとに、患者・施設等が特定されないよう一部情報を一般化・変更しています。また、今回の対応は個別の症例に対する判断であり、アシクロビルの投与間隔を一般的に変更することを推奨するものではありません。
参考文献
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「アシクロビル点滴静注用250mg」添付文書
- 今日の治療薬 2026
- 製造販売元DIへの問い合わせ
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